第2回くわなの自然「日本一美しいチョウが住む街・桑名」

【桑名市自然環境保護推進員・森 勇一】 

 「ミヤマ」と名のつく昆虫がいます。ミヤマクワガタ、ミヤマカミキリ、ミヤマカラスアゲハ、ミヤマアカネなどがそうです。前2つは甲虫、3番目はアゲハチョウの仲間、最後はアカトンボです。「ミヤマ」は、もちろん「深山」を意味します。

 私は、少年時代、名古屋で過ごしましたが、4つの昆虫のうち、どれも見ることも採集することもかないませんでした。

 桑名市には、4つの昆虫のすべてが住んでいます。林に入れば、ミヤマクワガタ(図1)を採集することができますし、多度峡周辺では渓流に沿って優雅に飛ぶミヤマカラスアゲハの姿をよく見ます。ミヤマカミキリは、ときどきコンビニの灯りにも飛んできます。9月の下旬、変わったアカトンボがいたと驚くのは、たいていミヤマアカネ。

ミヤマクワガタ

   図1 ミヤマクワガタ

  ミヤマカラスアゲハ(図2)を、「日本で一番美しいチョウ」とたたえる人がいます。春型のメスなどは大変色鮮やかで、私も日本で一番美しいチョウの一つ、と思います。

ミヤマアゲハ

      図2 ミヤマカラスアゲハ

  桑名市には、丘陵地だけでなく多度山系を中心とした標高の高い山々があります。その一方で、市内には毎日2回寄せては返す、干満の影響を受けた塩水湿地が分布しています。

 そこには、ベンケイガニ(図3)やクロベンケイガニが生息しています。桑名市には平地があり、台地もあります。そもそも、一つの町でサワガニとベンケイガニが隣り合わせにいるところなど、日本広しといえどもめったにあるものではありません。

ベンケイガニ

       図3 ベンケイガニ

 私たちは、こうした多様な自然環境を当たり前のように思っていますが、木曽三川をはさんだ隣の愛知県弥富市、その北側の愛西市や津島市・稲沢市などでは、市域に台地や丘陵地などまったくありません。「ミヤマ」と名のつく昆虫と出会うのは、図鑑の中だけ。

  これらの町で、渓流や山地を体感するためには、どれだけ川をさかのぼる必要があるのでしょうか。

 市内の山道を歩くと、前方へ前方へと飛び「ミチオシエ」とも呼ばれるハンミョウに出会うことができます。ゲンジやヘイケ・ヒメボタルなど、3種類のホタルを見つけることも、今の桑名市なら可能です。何と、恵まれた自然環境。少し前までは、市内にもギフチョウがいたといいます。

 昆虫自らの生命力や、昆虫どうし、あるいは他の生物などとの関係で、ムシの増減や絶滅も生じていますが、実際には昆虫の命の大半は、ヒトの自然への働きかけによって大きく左右されています。

 大人が、自分たちの住む町の環境を守る努力をしなければ、子どもたちが暮らすころの桑名の自然は大変さびしいものになってしまいます。

 春になっても、虫の羽音一つしない自然。蜜を求めて飛ぶハチやチョウなどが、まったくいなくなった花壇。そんな光景を想像してみて下さい。虫なき自然界では、野菜や果実は実りません。イチゴもトマトもキュウリも、食べることができないのです。

 「くわなの自然」では、少し難しくなるかもしれませんが、私は生態学的視点にたった自然観について、追究していきたく思います。