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物語が宿る、桑名の「上質」を知る旅

変わらない本質と変化を受け入れる柔軟さ

不易流行。変わらない本質を大切にしつつ、新たな変化も受け入れること ── 。桑名を歩くと、このまちをいくたびか訪れたという、松尾芭蕉の俳諧理念に由来するこのことばが思い起こされます。歴史を大切にし、素材にこだわり、最高のもてなしを提供する。その本質を貫くために、時代の要請に応じてサービスの姿や形を柔軟に変化させる軽やかさ。大切なものを守り、筋を通す桑名の人々の姿勢は、はじめから終わりまで、徳川家とともにあった江戸時代の桑名藩の矜持にも似ています。

歴史あるまちだからこそ、古くから受け継がれる精神と、紡がれ続ける物語があります。そんな桑名の「上質」にふれ、最高のもてなしを受けることができる、とっておきの場所をご紹介します。

諸戸家ゆかりの古民家を再生した心づくしの宿 ── CASA WATARI KUWANA

桑名を代表する名勝、六華苑と諸戸氏庭園のほど近く、東海道唯一の海路だった七里の渡し跡へもすぐの場所に、ひっそりと佇む古民家の宿があります。築130年の母屋は、明治から続く実業家として知られる諸戸家ゆかりのもの。2019年に大規模なリノベーションを行い、5つの時代を経た重厚な趣はそのままに、洗練されたスモールラグジュアリーな空間に生まれ変わりました。桑名の歴史を知る場所で1日ゆったり過ごす、この場所ならではの体験を味わいましょう。

諸戸家ゆかりの母屋。「日本一の山林王」と呼ばれた諸戸家は、明治期に私費で桑名市の水道建設を行ったことでも知られています。諸戸氏庭園は初代清六の邸宅、六華苑はその息子である二代目清六の自邸だった建物です

エントランスにはカタカナで「モロト」と書かれた鬼瓦が埋め込まれています。同じデザインの屋根瓦は諸戸氏庭園でも見られます

CASA WATARIの名は七里の渡しに由来しています

貴重な遺産を次代へ引き継ぐため宿を開業

CASA WATARI KUWANAは現在、「番頭」の近藤大智さんが一人で切り盛りしています。この建物は、諸戸氏の事業の右腕だった近藤さんの曽祖父が諸戸家から譲り受け、祖父母、両親の代まで暮らしていました。

「住む人がいなくなり、建物は老朽化が進んでいました。なんとかこの家を次代へ引き継ぎたい。建物を活用した事業をおこして家を残せないか」そう考えて民泊を始めたところ、海外からの訪日旅行が話題だったこともあり、日本らしい宿として好評を得たそうです。そこで一念発起し、資金を集めリノベーションに着手、2020年にCASA WATARI KUWANAを開業しました。

穏やかな語り口が印象的な近藤大智さん。受付業務にコンシェルジュ、朝食づくり、清掃まで、現在はひとりでこなしています

「蔵」と「離れ」の2棟からなる客室

客室は、レセプションやダイニングなどがある母屋から庭に続く小路の奥にある、2棟の独立した家屋。平屋の「離れ」と、2階建ての「蔵」があり、それぞれ1組ずつの貸切で使用できます。

庭の木々に囲まれた離れは、この家のシンボルツリーである五本松を眺めることができます。縁側で小鳥のさえずりを聞きながら、朝のひとときを過ごすのも気持ちがよさそうです。

平屋の離れはモダンな和の空間。浴室には木の香漂う檜葉風呂があります

離れはベッドが2台、その他畳に2組布団を敷き4名まで宿泊可能

蔵は、1階が庭を眺めながらくつろげる板張りのリビング、2階が寝室になっており、窓から六華苑の洋館を望むことができます。バスルームには十和田石の浴槽がしつらえられています。

蔵のリビング。ソファはベッドとしても使用できます

2階は寝室。布団を3組敷くことが可能です

日常から離れ、穏やかな時間を過ごせるよう、室内にテレビはありません。Bluetoothのスピーカーが設置されているので、スマートフォンなどで好きな音楽を流すのもおすすめです。JALの国際線ファーストクラスで使用されている寝具をはじめ、室内の備品やアメニティもこだわりの品を揃え、快適さを追求しています。

サービスは相手に寄り添う「鏡」

開業以前、近藤さんは「スターバックス コーヒー ジャパン」で創業時から20年以上、接客、サービスに携わった経験をもち、かかわった店舗は数百にのぼります。

「サービスの基本は『鏡』だと思っています。向き合う相手の要望に合わせること」と話すことばどおり、一人ひとりに寄り添い、可能なかぎり要望にこたえるコンシェルジュサービスを大切にしています。

「実現したいことはまだたくさんあります。まずは大広間を改装してシアタールームやライブラリーをつくるなど、共有部分を充実させていきたいと思っています。また、今は夕食をお出ししていませんが、ゆくゆくは桑名らしいはまぐりのコースを提供したい。マイナーチェンジは日々していますが、完成はないかもしれません。定年のない仕事ですね」

古民家の趣とモダンな北欧家具が融合した共有部分の内装。諸戸氏庭園の赤レンガを思わせる腰壁も特徴

朝食などで利用するダイニング。向かいにあるラウンジではコーヒー、お酒などのドリンクやスイーツ、軽食がいただけます

日々サービスを提供する近藤さん。レセプション奥には「念ずれば、花開く」の詩が

リピーターも多いというCASA WATARI KUWANA。近藤さんは、変わらない安心と、変わることへの期待と驚きの両方を、訪れる人に感じてもらいたいといいます。めざすのは、この宿と、そこで提供するサービスを通じて、人、場所、時代をつなげる橋渡しになること。先祖から渡されたバトンを次世代へつなぐ近藤さんの意志は、諸戸家の事業を取り仕切った曽祖父と同じ「番頭」という肩書にもあらわれています。そんな心意気が、この宿をより一層魅力的な場所にしているのは間違いありません。訪れるゲストはすべてを安心してゆだね、ただそこで過ごす上質な時間を感じ、味わうことができるはずです。

CASA WATARI KUWANA

住所

三重県桑名市桑名663-7

時間

チェックイン16時00分~21時00分、チェックアウト10時00分、コンシェルジュデスク16時00分~21時00分、ラウンジ8時00分~21時00分、朝食8時00分~9時30分ラスオーダー(事前予約制)

定休日

不定休

その他

営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。

URL

施設紹介ページ

公式ウェブサイト(外部サイトへリンク)(別ウィンドウで開きます)

桑名にこのバーあり。受け継がれる名バーテンダーの仕事 ── 洋酒肆 ふるかわ屋

桑名駅から歩いてすぐ、にぎやかなロータリーとは反対側の住宅街にぽつんと灯りをともす「洋酒肆(ようしゅし) ふるかわ屋」。バーテンダーでその名を知らぬ人はいない銀座「クール」、大阪ミナミ「吉田バー」の名バーテンダーらの薫陶を受けた店主が、二人の息子とともに30年守り続けるバーです。そのあたたかな灯りに誘われるように、様々なバックグラウンドを持つ人たちが桑名の小さな店に集い、一期一会のときを共有します。

ふるかわ屋の顔でもあるニッカウヰスキーのラベルが目印の入口。「洋酒肆」の「肆」とは小さな店のこと

カウンターごしにマスターと会話を楽しみながらその美しい仕事を眺めるひととき

店内にはカウンターとテーブル席があり、一人でもグループでも気兼ねなく過ごせます

オリジナルウイスキーを使用した珠玉のハイボール

最初の一杯には、すっきりとした飲みやすさで、ウイスキーのしっかりした味わいも楽しめるハイボールを。使用するのは、ニッカウヰスキーのマスターブレンダー監修のもと、独自にブレンドしたふるかわ屋オリジナルのウイスキー。きりりと冷えたハイボールは、絹のような光沢と滑らかさ、黄金色の大麦畑のような美しい一杯です。氷は入れないスタイルで、口に含めばウイスキーのほのかな甘みとうまみが広がり、後味はさわやか。「ふるかわ屋のハイボールが最高」というファンが多いのもうなずけます。

創業以来の名物、マスターが生み出す珠玉のハイボール

ふるかわ屋オリジナルのウイスキーはレトロなラベルがキュート。「洋酒肆 ふるかわ屋」の名が入っています

古きよき時代の「スイングカラン」でビールの味を引き出す

ハイボールと並ぶ名物であるビールは、ハンドルを横に動かす「スイングカラン」と呼ばれるビールサーバーで注ぐのが特徴。昭和30年ごろまで使用されていた国産サーバーを復刻したもので、現在使用するのは全国でも40軒程度。その珍しさから「絶滅危惧種」といわれているのだそう。現在主流のサーバーは、誰でも同じ味ですばやくビールが注げるのに対し、スイングカランは注ぐ人により味が変わることから、より高度な技術が求められます。一方で、注ぎ方によって同じビールでもまったく異なる味に仕上げることができます。

スイングカランではビールを注ぐ勢いも通常のサーバーとは違うそう。扱いの難しさから、かつてのビアホールでは専門の職人がビールを注いでいました

 

ふるかわ屋で現在提供しているビールは、1842年にチェコで誕生したピルスナーウルケル。日本でも一般的な黄金色のビールはいずれもピルスナースタイルで、ウルケルはその元祖となるビールです。一般的なラガービールよりアルコール度数は低めで、ビールのコクとホップの苦みが強いのが特徴。ふるかわ屋ではチェコの伝統的な注ぎ方である、先に泡を入れてからビールを注ぐ方法で、その味わいを引き出しています。

スイングカランで注いだピルスナーウルケル。きめ細かな泡、くっきりとした味わい、ホップの苦みが際立ちます

伝統と革新をしなやかに、美しく体現

ふるかわ屋を切り盛りするのは、マスターの松田英巳さん、そして長男の佳祐さん、次男の俊朗さんの三人です。「ふるかわ」の名は、独立するときに「クール」の古川緑郎マスターからいただいたのだそうです。

「若いころは日本中の名店といわれる店をめぐりました。中でも古川さん、吉田バーの吉田さんにはお世話になり、カウンターの中に入れてもらい教えていただいたこともありました。師と仰ぎ、心酔していました」

昭和を代表する名バーテンダーの仕事から多くを学んだ松田さんもまた、本物のバーテンダーのもてなしを体現する一人です。技術はもちろん、寡黙だけれどやわらかな存在感、なんでも話したくなる懐の深さ。そして、お酒を扱う一挙手一投足の無駄のない美しさ。

独立して30年。その時間は、松田さんがバーテンダーとしてサービスを提供し続けるのと同時に、地元の常連や遠方から通うファン、観光や出張で立ち寄る人など、あらゆる人が松田さんの生み出すお酒と空間を求め、この店に足を運んだ積み重ねでもあります。

そんな父の背中を追い、佳祐さんは、文化人の贔屓が多いことで知られる京都の名店「祇園サンボア」での修業を経て、父と並んでカウンターに立ちます。その後、俊朗さんも桑名に戻り、同じ道に進むことを決めました。二人の息子と仕事をすることを松田さんはうれしいといいます。

小学校の卒業文集に将来の夢はバーテンダーと書いたという長男の佳祐さんは、ふるかわ屋が創業した年に生まれたそう

祇園サンボアを支えるほどの実力をつけ、桑名に戻った佳祐さんがつくるカクテルも、ふるかわ屋のたのしみの一つ

左がスタンダードカクテルで、ブランデーベースの「サイドカー」、右がウオッカ、マスカットリキュール、レモンジュースなどが入った「ベリル」

松田さんが二人の師に出会った頃、師は50代、60代。そして、時が流れて松田さん自身が当時の師の年齢となり、その背中を二人の息子が追いかけている ──。昭和の名バーテンダーの歴史は、ここ桑名で受け継がれていきます。時代が変わり、暮らしが変わっても、その隣りにそっと馴染み、寄り添ってくれる。そんな存在としてふるかわ屋は、これからも長く、美しく、伝統と革新を体現していくに違いありません。

洋酒肆 ふるかわ屋

住所

三重県桑名市東方143-8

営業時間

17時00分~23時00分

定休日

日曜・祝日

その他

営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。

URL

公式Facebook(外部サイトへリンク)(別ウィンドウで開きます)

文明開化の音がする、「牛鍋」を広めた老舗料亭 ── 柿安 料亭本店

東京・銀座で最高級の松阪牛を提供する料亭「柿安 銀座店」や、全国のデパートで展開する惣菜店「KAKIYASU DINING」などでおなじみの「柿安本店」。発祥の地は桑名にあり、現在も本社と精肉本店、料亭本店などが桑名市内にあります。

初代が柿の行商から転じ、桑名で牛鍋屋をはじめたのは1871年(明治4年)。文明開化の流れをいち早くとらえ、瞬く間に繁盛店になりました。それから150年。二代目は牛鍋に使用する牛の飼育をはじめ、職人気質の料理人だった三代目は現在の料亭の基礎となる会席料理を取り入れ、牛肉離れが進んだ五代目の時代には惣菜事業を始めました。六代目の現在、進取の気性に富んだ先人たちと同様に、伝統を守りながら時代の動きを読み、挑戦を続ける姿勢に変わりはありません。「柿安本店」の歴史が息づくここ桑名で、とびきりの「食の喜び」を味わいましょう。

こだわりの牛肉を、すき焼、しゃぶしゃぶ、炭火あみ焼、鉄板焼で

「柿安 料亭本店」は、「柿安本店」の源流であり、これまでの挑戦の歩みが凝縮された特別な場所です。桑名城跡である九華公園に隣接する本社から歩いてすぐの場所にあり、元旅館の建物は花街の趣を残す風情と老舗料亭の風格が漂います。

柿安本店本社から歩いてすぐの場所にある「柿安 料亭本店」

職人が板張りの床を削って生み出す伝統的な名栗加工が美しい廊下

客席は全席個室

提供するのは、すき焼、しゃぶしゃぶ、炭火あみ焼。加えて、専用の個室では鉄板焼きのコースをいただくことができます。すき焼、しゃぶしゃぶには、柿安ならではの牛肉でつくった桑名名物しぐれ煮、季節野菜などが付き、コースにはしぐれ煮のかわりに華やかな季節の前菜とお造りが付きます。肉は黒毛和牛か松阪牛を選ぶことができ、網焼きのコースでは牛肉の中でも大変希少な、最高級のヒレ肉といわれるシャトーブリアンを選ぶこともできます。

代々受け継がれる割下でいただく柿安料亭本店のすき焼

専用の個室でいただくことができる鉄板焼き

柿安名物である松阪牛は、きめ細かな霜降りで、口の中でとろける柔らかさと脂の甘み、豊かな香りが広がる、まさに極上の逸品です。すき焼は、1枚目は溶き卵で、2枚目は大根おろしでいただくのが柿安流。代々受け継がれた割下との相性も抜群です。

すき焼で使用する鉄鍋は桑名特産の鋳物。料亭本店では炭火でいただくことができます

 

合わせていただく季節野菜も、生産者と直接取引する九条ネギや甘みの強い玉ねぎなど、厳選された素材ばかり。そして、居心地のいい空間、女将、店長をはじめとするスタッフの行き届いたもてなしは言わずもがな。すべてにおいて最高を追求する姿勢が貫かれています。

「肉の柿安」ならではの松阪牛の品質へのこだわり

松阪牛とは、生後8カ月頃から三重県内の限られた地域で肥育され、独自の個体識別管理システムに登録された黒毛和種で、未経産のメス牛に限られます。料亭本店で使用する松阪牛は、その中でもとくに優れた血統とされる但馬系を素牛とし、長期契約を結んだ自社牧場で牛飼いのプロによって育てられています。食欲増進のためビールを飲ませたり、皮下脂肪を均一にするためにマッサージをするなど、1頭1頭大切に育てられており、等級はすべてA5ランク。生産、加工、販売まで自社一貫だからこその安心と安全、価格を実現しています。

 

食事の際には提供された松阪牛の血統書がもらえるのも柿安ならでは。その牛の名前から、4代にわたる血統、生産地、個体判別ができる「鼻紋」まで貼付されています。その徹底された血統と品質管理には驚くばかりです。

柿安ならではのこの一貫体制の礎となっているのは、松阪牛の育成に情熱を注いだ二代目の時代に築かれました。子牛を一カ所で育てず、成長段階で場所を変える育成体系を整えた二代目は、牛の耳を握っただけでサシの入り具合を割り出すほどの目利きであったといいます。この極上の牛肉づくりへのこだわりが現在の「肉の柿安」へつながっているのです。

「おいしいものが食べたい」気持ちに最高の形で応え続ける

初代は、店を開ける前に砂糖と醤油の分量を量り、店を閉めてからもう一度残りの分量を量ったといいます。これを1年続けることで季節ごとの客の味の好みを把握し、「いつ行ってもおいしい店」という信用を勝ち得ました。ひたすらにおいしさを追求する姿勢は、創業時から受け継がれる柿安の伝統であり、昔も今も、いちばんの魅力です。

「おいしいものが食べたい」という、いつでも変わらぬ人々の要望に対し、柿安 料亭本店が提供する最高のこたえである一品をぜひ味わってください。

柿安 料亭本店

住所

三重県桑名市江戸町36

営業時間

11時30分~21時00分(20時00分ラストオーダー)

定休日

なし(年末年始を除く)

その他

営業時間・定休日・料金等の最新情報については公式ウェブサイトでご確認ください。

URL

公式ウェブサイト(外部サイトへリンク)(別ウィンドウで開きます)

特集 くわなの過ごしかた。

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掲載日:2022年2月1日

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